誰かが捨てられなかったもの


夏までに引っ越したいと思って近場の物件をこまめに見ている。というよりすでにお気に入りの物件があって、そこの間取りを何度も見返している。
南側の土地が拓けてるし、風呂もトイレも窓があるし、河川敷が近い。
引っ越したい理由は、現在の仕事部屋にクーラーが無いことと、網戸の無い風呂場の窓から虫が入り放題だから。
住んで長いし愛着もあるけど、いい加減ボロすぎる。
この変な家のことを覚えておけるように日記を書いてみる。

 

今朝は東京から持ってきた器と台所のカトラリー類を整理した。
東京の家を引き払ったのは11月なのに、未だに荷解きが終わっていない。空の家で荷解きするならいいけれど、この家はただでさえ物が多いから、いらないものを捨ててからじゃないとどうにもならない。
そもそも既に家にあった物の整理が大変だった。
段ボールいっぱいの食器を断捨離し、賞味期限の切れた食品を大量に捨て、無限に出てくる薄汚れたスプレー類を捨て、家のあらゆるところから出てくるクイックルワイパーのシートと油固め剤を一箇所にまとめる、などなど。
先輩は目の届かないところに物を仕舞うともう無くなった!と思ってしまうらしく、封を開けてちょっとだけ使った大容量パック、みたいなものがたくさん出てくる。
引っ越しまでに使い切れるかな。
器はなんとかおさまったけど、カトラリー類はまだかかりそうだ。だって我が家にはお玉が四本もある。まだ出てくるかもしれない。

 

この間は知らないおじさんが「外の使ってない棚もらっていい?」と尋ねて来た。廃品回収をしているわけでもなく、たまたま家の前を通りすがっただけのおじさんだと思う。こっちにも使ってない棚あるからあげますと先輩が言ったら、「これ無くなると玄関周りがスッキリしていいね〜」と誰視点かよくわからないことを言っていた。最後までタメ口だった。

 

捨てたいものはたくさんあるけど、それが実は今までこの家に住んできた誰かの思い出の品だったりするので捨てづらい。
数年ぶりに遊びに来た元住人が、何気なく手に取った本を何気なく開いたページに当時の写真が挟まっていて盛り上がったこともある。
それを見て、こんなレベルで誰かの思い出があちこちに潜んでるなんてどうしたらいいんだ…と放心してしまった。
誰かが捨てられなかったものばかりが積み上げられた家に住んでいる。
うまく手放すにはどうしたらいんだろうな。

 

帰ったら玄関に果物がゴロゴロ転がっていた。りんご、青リンゴ、グレープフルーツ、小玉メロン、オレンジなど。
先輩が実家から持たされて帰ってきたらしい。最近は暖かいから痛まないうちに食べきりたいけど、先輩はまたどこかに遠出してしまった。
グレープフルーツは先に食べちゃおうかな。メロンは友達も呼んでから切った方がいいかもしれない。