声が聞こえないところに行っても

 

20200502

水切りヨーグルトと晩柑にはちみつと胡椒をかけたトーストを作って食べた。水切りヨーグルト、はじめて作った。コーヒーフィルターを使って一晩水切りをしたもの。うまくいったと思うし、楽にできて美味しい。ホエーがたくさん余ったので、リコッタチーズというのも作ってみようかと思う。

家の前の川がまたどこかで堰き止められている。水たまりに残った小魚とエビを狙って近所中の鳥が荒ぶっていてうるさい。家の前の川は農業用水として使われているらしくて、時々ぱったりと水が絶える。誰も生態系のこととか考えてないんだろうな。でも、何度川の水が干上がっても小魚はしぶとく生きてるし、毎年たくさん蛍が出る。水たまりにうじゃうじゃ溜まってる小魚は影にも敏感だから、小さい橋の上を自転車が通っただけでザッと水面の色が変わる。たいてい一週間くらいで水が戻る。

夜、好きなコンビのラジオの最終回を聞いた。いまでも毎晩寝る前に聴くのを習慣にしているくらい生活に食い込んでいたラジオだったから、終わるのが信じられない。とても最終回とは思えない尖ったネタをぶっこんでいて笑ってしまった。楽しい最終回だった。
声が聞こえないところに行っても元気でいてほしい。

 

 

20200503

先輩に、近所の電機屋でSwitchの抽選販売に当たってるかどうか確認してきてくれん?と頼まれる。あんたのお母さんじゃないんだがとキレつつ、着替えてから電機屋に行く。抽選には外れていた。

電機屋をブラブラしながら、ひとり暮らし応援フェアの売れ残りが安くなっているのを眺める。もう5月だしな。もしこれから一人暮らしをするとしたら何を買わなきゃいけないのかなと考える。冷蔵庫、洗濯機、電子レンジあたりが定番なのかな。あとドライヤーとか、カーテンとか?
実家を出てからいまのシェアハウスに入居したので、ひとり暮らしをしたことがない。必要なものがよくわからない。ひとり暮らし向けと書いてある130リットルくらいの冷蔵庫を見て、こんなん小さすぎるだろう…と思っていたのですが、あとでツイッターの人たちに聞いたらわたしの冷蔵庫の感覚がバグっていることがわかった。130リットルで足りるんだね。ふーん。実家もいまの家も450リットル以上あるタイプだから、それが普通だと思ってた。ひとつ賢くなった。そもそも冷蔵庫の大きさをリットルで示すことを今日初めて知った。

夜、元気を出すためにミュージカルの配信を見る。ベーコンとほうれんそうのパスタ、サニーレタスのサラダ。まだ漬けている途中の晩柑酢をドレッシングに使ったらすごく美味しかった。はやく色々試したい。古い白ワインを飲んだら途中から頭が痛くなってダウンしてしまった。新しいワインを買おう。

 

 

20200504

家の前であの時の猫を見た。今度こそ絶対にあの猫だった。車のヘッドライトが丸く照らした中にいて、しばらく窓越しに見つめ合った。車を降りて近づこうとしたらぱっと逃げてしまった。左の後ろ足を引きずっていたけど、ちゃんと走ったり塀に登ったりできていた。
よかった。ちゃんと生きてたんだな。あの時はあんなにボロボロだったけど、元気でいるなら何よりだ。本当によかった。運転しながらちょっと泣いた。

灰谷さんから文芸リレーというバトンを受け取る。バトン、ふーんと思ってたけど灰谷さんの文章の続きを考えるのはおもしろそうと思ったので続きを書いてみる。久しぶりに文章を書く脳みそを使った。おもしろかった。
文章を書くの最近全くやっていなかったけど、たぶん今は必要が無いんだと思う。いつでもスルスル書けますよって状態になりたいとは思うけど、書かなくてはいられないってかんじではないのでどうせ続かない。
忘れたいことがあったらまた書くかもしれない。

 

 

20200505

昨日の日記を書きながら、わたしは忘れるために書くんだなと思った。数年煮凝りみたいになっていたことを、書いたらスッと忘れちゃったりする。それはそれで無責任なのかもしれないけど、そうでもしないと新しいことが入ってくる隙間を取っておけないし。成仏してほしい気持ちはまだいくつかあるけど、どう書いたものかわからないのでずっと放置している。手を付けるには自分が愚かすぎると思う。自分の愚かさに向き合うには体力がいる。

ゆっくり朝ごはんを食べていたら、後輩が家に来た。寝起きぼさぼさのままWi-Fiのパスワードを教えてあげた。居間で一日zoomを繋ぐらしい。

帰りにスーパーに寄って、リコッタチーズを作るために牛乳を買う。一番安い牛乳を見極めていたら、店員のおばちゃんが「あら〜。つめとお洋服が同じ色だね。おっしゃれ〜」と話しかけてくれた。そんなところに気が付いてくれる人がいるなんて、と感動してしまった。牛乳を選んでいる人間のつめの色に気が付くなんて、それが服と同じ色だってことに気付いてくれるなんて、それをすごく素直に伝えてくれるなんて。「その色っていま流行ってるよね」とも仰っていたので、きっとすごくおしゃれ好きな方なんだと思う。めちゃくちゃ機嫌良く帰宅。

 

 

20200506

薬局でビール6缶とアルフォートのファミリーパック、サワーオニオン味のポテチ、KATEのリムーバーと金色のマニキュア、一番安いコットンを買う。

帰り道、自転車を漕ぎながら一瞬マスクを外した。5月の夕方ってこんなに花の匂いがするものだったのかと思った。歩道に張り出している黄色いバラの茂みとか、駐車場のフジの花とか、道端のオレンジの花とか、空気中にいろんな香りの塊があって、自転車でそのなかを突っ切っていくイメージ。
ついこの間まで当たり前のことだったのに、こうすることがものすごく贅沢で秘密にしなくてはいけないことみたいになってしまったなと思う。マスクをつける前はわざわざ花の香りを嗅ごうとなんてしなかったかもしれないけど。誰かに見られる前にまたマスクをつけて自転車を漕ぎ続けた。

 

 

20200507

朝、居間のごみをまとめていて、ふと顔を上げた瞬間、縁側から家の中を覗き込んでいる猫と目が合った。猫は首を伸ばして一生懸命家の中を覗いていた。通りがかりというより、がっつりうちを観察にし来たようだった。こっそり観察していた猫に逃げられちゃうことはよくあるけど、猫にこっそり見られていたのは初めてだ。こんにちは〜と声をかけたら、猫はあっという間に逃げてしまった。しっぽの短い三毛猫だった。

Fと電話しながら化粧をする。Fも同じくいま無職なので、午前中とかに何の脈絡もなく電話がかかってくる。いつでも電話をかけたら取ってくれる友達がいるのって、無職でいる素晴らしさのひとつだと思う。
電話の内容は、お互いに無職であることを讃え合う、生活費のこと、家族のこと、受けられる補助制度についての情報交換、最近読んだ漫画を勧め合うなど。

先輩が元同僚たちとの打ち上げを家でやるというので、昼から外に出る。久しぶりにカフェに来たら、窓という窓をすべて開けて営業していた。天気が良いしあったかいので普通に良い感じ。お客さんは少ないような気がする。
個人的にわたしに会うために家に来てくれたりするのは全然平気なんだけど、みんなで遊ぶけどあなたも来る?という集いにはものすごく拒否反応が出る。今日の集まりもきっと楽しいんだろうし、別に嫌いになったわけじゃないし、そういう飲み会に出ることが重要なんだってわかるんだけど、わたしは行きたくない。わざわざ自分の自己肯定感を下げたくないから行かない。
カフェで日記を書くなどして過ごす。いまは、自分で決めたことを自分でこなして、時々川に行って淡々と生活していたい。

 

 

20200508

先輩が浴室にカビ取りハイターをしてくれたらしく、壁がかなり白くなっていた。こんなに綺麗になる浴室だったのか…と衝撃を受けた。うちの浴室は明らかに後から増築されたもので、かつ手作り感が拭えない。壁にはペンキの塗り跡が残ってるし、タイルの脇からホットボンドがはみ出してるし、壁に謎の穴も空いている。窓に網戸が無いし。いわゆるマンションの浴室みたいな、つるつるに磨き上げることのできる浴室じゃないので、どこまでが汚れでどこまでがペンキの跡なのかよくわかっていなかった。壁が白くなって、昼に浴室に踏み込むととても眩しい。

お昼、先輩と近所をドライブ。いままで入ったことのなかった焼き鳥屋さんでお弁当を買う。ランチの時間は過ぎていたけど、どうぞどうぞと愛想よく受け入れてくれた。やっぱりコロナでお客が減っているようで、すごく丁寧に接客してもらった。大変っすね〜と世間話などもする。
お弁当ができるのを待つ間に、履歴書に貼る写真を印刷しにコンビニに寄る。二年前に先輩に撮ってもらった職員証用の写真。爆笑してる写真だから履歴書に貼るにはラフすぎるし、化粧も全然してないんだけど、すごく良い写真なのでいつもこれを使っている。スマホからなんとか印刷しようとしたら、やたら画質の悪い写真が刷り上がってしまった。解像度ガビガビの笑顔が並んでいるのはけっこう良かった。今日の思い出として取っておこう。

夕方、川向かいの家のおっちゃんが飲みにやってきた。いままでそれほど親しいわけではなかったと思うんだけど、どういう風の吹き回しなんだろう。時々縁側で洗濯物を干していると川越しに目が合ったりするけど、挨拶はしたりしなかったり無視されたりする。昔、川越しにインスタントラーメンを投げてもらったことがある。
おっちゃんが遊びに来ている間、ずっと二階で身動きしないようにしていた。本当はそんなおもしろいイベントには参加した方がいいと思うのに、怖くて動けなかった。どうして怖かったんだろう。何が怖いんだろう。仕事について何か聞かれたとき、うまく説明できないだろうことが怖いんだろうか。それとも単に人見知りな自分を受け入れられなくて苦しいんだろうか。
お客さんが来ているのに自室にこもって息を殺しているのは大人としてかなり間違っていると思う。お客さんに会うのは怖いっていう気持ちと、いやここでこうしているのは絶対に良くない、怖いのなんか我慢して下に降りればいいのにっていう気持ちが戦っていて、その間ずっと動けなくて、どっちの状態でも嫌でずっと動けなかった。
このかんじは、実家で存在を消して生活していた頃を思い出す。家族に鉢合わせないように、こっそり台所の床にしゃがんでごはんを食べていた時期があった。そんな風に生活するのは間違ってるっていう思いと、でも家族みんな仲良いよねっていう体を演じるために食卓につくのは嫌だという思いが相まって、どっちにしても嫌で、どっちかを選んでも選んでいなくても苦しくて、出口が無かった。できればもうそういう思いはしたくない。いまはどうしてこうなってしまうんだろう。

夜、Nさんがふらっと家に来たのは大丈夫だった。わたしに来週の予定を伝えに来て、そのまましばらく家の居間で一緒にドラマを見たり先輩とゲームしたりしていた。ビールを開けてポテチも食べた。スーパーで安かった餃子を焼いて三人でちょっとずつつまんだ。