ガラス瓶を噛み砕く

 

20200328

冷静に計算してみたら、引っ越すためのお金が無いことが発覚。仕事が決まったとしてもここから出られない。どうしたらいいかわからないので考えないことにする。

グザヴィエ・ドランの「マイマザー」を観たら変なショックで透明な鼻水が止まらなくなった。

 

 

20200329

最終話に向けてIDを全部見返す。改めて見返すとあちこちに「穴」のモチーフが使われていて面白い。村上春樹から引用してるネタも多い。
結局見返していたら0時を過ぎてしまって、うたたねしていた先輩を起こしてネットフリックスで最終話を見た。先輩がうつらうつらするたびに見て!!って起こしていたけど、だんだん可哀想になってきて途中からはひとりで見た。
ID、ディスコ以来書いてなかった探偵モノをまたやってくれたことも嬉しいし、最終話がディスコ以降書いてきた祈りに帰結したところも最高だった。いままでの舞城作品の流れを汲み、かつ新しい境地を見せてくれた作品だったのではないでしょうか。

 

 

20200330

Nさんが家に来る。4,5月の仕事について話を聞く。進路の相談にも乗ってもらう。
就職が決まっても決まらなくても、4,5月はこっちに残ることになりそう。いまから上京しても、緊急事態宣言が出たりして東京から脱出できなくなる気がする。
Nさんから依頼された仕事は確かにわたし向きだし、実績にもなるし、報酬も弾んでくれるらしい。自分の能力を買ってもらえるのはものすごく嬉しい。就職が決まるより嬉しいかもしれない。

仕事を受けることを決めた勢いで、新しいmacbook airを注文した。無職がこんなものを買っていいのか…とかなり怯えていたのですが、8年前に買ったmacbookはもう限界だし、就職した場合も自分のPCで仕事しなきゃいけないし、airを買って後悔することは無いだろうと思い切って踏み出した。
生活費として使っている口座ではなく、箪笥貯金から支払うことにする。いままで手渡しでもらったお金をずっと靴箱に貯めていて、それを引っ張り出して一枚一枚数えた。ほとんどが指名されて受けた仕事の報酬なので、なんとなく大事にしてきたお金だった。仕事道具としてPCを買うのは良い使い道な気がする。大きい買い物だったのでまだドキドキしている。

 

 

20200331

ガラス瓶を噛み砕く夢を見て、起きてからもなんとなくお腹が気持ち悪かった。動くたびお腹の中のガラスが擦れて粘膜を傷つけるのではないかという感覚や、人間の身体に入れてはいけないものを入れてしまった感覚、いま身体のなかにあるということはこれから出さないといけなくてそれはものすごい苦痛を伴うだろうという感覚。何年も前から悪夢として妊娠している夢を見るんだけど、その気持ち悪さとほとんど同じだと思った。気付いたときには遅くて、その代償としてこれから更に苦しまないといけないという種類の恐怖。しかも夢の中の自分は「瓶の捨て方がわからない」という理由でガラス瓶を食べていた。あまりにも愚かすぎる。

面接の結果が来るはずの日だけど、なかなか連絡が無い。はやめにお風呂に入って、浴槽の中で本を読む。

夜になってもあたたかい。窓を開けておくとぬるい春の匂いがする。冬用のスウェットを洗濯カゴに入れて、ワッフル地の長袖で過ごす。
先輩と家から一番近い自販機まで散歩する。昼間はなるべく外出しないように心がけているので、外に出ること自体が数日ぶりだった。自販機でコーラを買って便所サンダルをペタペタ鳴らしながら戻ったら、目の前に見えてきた我が家があまりに可愛くて、しばらく家を眺めた。真っ暗な住宅街にひとつだけオレンジの光の漏れる家が佇んでいる様子がなんだかものすごく可愛かった。どの窓にもカーテンが無いことや、全ての部屋の灯りが点いているせいでアホっぽいのかもしれませんが…こんなん可愛すぎる、通り過ぎる人みんなこの家のこと好きになってしまうと騒ぎながら何枚も写真を撮った。

 

 

20200401

夕方、zoomで選考の結果を聞く。わざわざzoomで話すってことは…と覚悟はしていたが、この状況で採用するのはお互いに良くないかも、と言われてしまった。断られたというより保留になったかんじ。とはいえ事業の再開の見通しが立たない状態らしく、採用はいったん白紙に戻ってしまった。ここに行けたらいいなと思っていた会社だったので残念。

人生がグニャングニャンになってきた。やけになって欲しかった香水を注文。

 

 

20200402

続けてもうひとつ受けていた会社からも、この状況で選考を続けることが難しく…と断りの連絡が来た。これで東京に戻る道が断たれてしまった。
うららかで天気の良い朝で、家の隣の川に桜の花びらが流れていくのをしばらくぼーっと眺める。

だんだん焦り出して、失業給付金やら国の補償やらを調べる。失業給付金は受けられるだろうけど、元の給料の60〜80%をもらえるというかんじなので大した額にはならなそう。下手したら給付までに3ヶ月待たなくちゃいけない場合もあって、そんな状態でどう生きればいいんだろう。貯金も全然無いし、国の補助制度は貸与ばっかりで給付は無い。マスク二枚配りますとか言ってるし…。
とりあえず市役所に行って健康保険と年金の手続き、ついでにそれらが減免か免除にならないか聞いてみる。申請自体はできるけど離職票が無いと手続きができないらしい。しばらくは待つしかないとのこと。

とりあえず二ヶ月くらいは仕事をもらう約束をしているのでなんとかなると思う。その先はどうなるんだろう。

 

 

20200403

起きてすぐ涙が止まらず。昨日はなんともないと思っていたことの悲しさが今朝ようやく追いついたんだと思う。

昨日の夜、元職場の人たちと少人数でお花見をした。来ない?って声をかけてもらったから遊びに行ったけど、みんなが騒いでいるなかで全く気分が乗らず、ずっとテントのなかで横たわっていた。来るべきじゃなかったなと思った。わたしがいなくたって全く問題なく盛り上がる場なんだし、一応誘ってくれただけでわたしはこの場を楽しめないんだから来るべきじゃなかった。
外が寒くなってきて引き上げたけど、その後みんな我が家にやってきて夜中まで飲んでいた。わたしは帰ってすぐに二階の自室に篭ってひたすらマインスイーパをし続けた。風呂に入るタイミングを見計らっていたけど、結局一階に降りる勇気が出ず、こっそり顔だけ洗って寝た。
自分の家なのに自由に振る舞えないこと、かつそれが自意識過剰なだけでわたしが気にしなければ解決することというのが実家で暮らしていたときの感覚と全く同じで、とにかく苦しかった。マインスイーパをしている間は苦しいとか何も思わなかったけど、何も思わないためのマインスイーパなんだから当たり前かもしれない。

朝ごはんを食べて身支度してコーヒーを淹れるところまでは機嫌良く過ごしたけど、その後機嫌が急降下してずっと体育座りでぼーっとしていた。何をしたら人生が良い方向に向かうのか、良い方向って何なのか全然わからない。