橋の下をくぐる

 


20200404

晩ごはんを考えるのがすごく難しい。先輩に「今日何食う?」って聞かれるとしんどくなってしまう。献立を考えていなかったことに対して勝手に罪悪感を感じてしまう。先輩は仕事で忙しそうだし、暇なわたしがまとめてごはんを作った方が効率的だってわかってる。わかってるのに全然できない。急かさないでってこないだ怒ってしまったので、最近さらに気を使わせている。
「何食う?」は別にごはん作ってって意味ではなくて、単にお腹空いたな〜くらいの意味なんだと思う。前はほぼ一日中一緒にいて同じ仕事をしていたから、作れる方が作るか、何か食べに行けばよかった。でもわたしだけ仕事が無くなってバランスが崩れた。しかも外食もできない時世なので自炊しか選択肢が無い。
わたしの収入を気にして先輩が食材費を多めに出してくれたりするから、余計に何かしなきゃと思ってしまう。というかそもそもお金を出す役と家事をする役に分かれること自体にものすごく抵抗感がある。晩ごはんを考えるのが難しい原因の多くをこのことが占めていると思う。別に先輩がそうして欲しいと思っているわけじゃなく、わたしが勝手にそう感じているだけなんだけど。かといって自分の分は自分で作ってと突き放すには、先輩は忙しすぎるし可哀想だと思う。
いろんな状況が重なった結果、夜の22時にミーティングが終わって疲れて空腹の先輩と、晩ごはんを作らなくてはというプレッシャーに負けてただたばこを吸っているだけのわたしがエンカウントする日々が続いている。
どうにかしないといけない。どうしたらいいんだろう。いっそ一週間の献立を先に決めておいたら悩まなくて済むのか?

 

20200405

ぐちゃぐちゃに荒れていた自室を片付ける。
二段重ねの凝った作りの箱を発見。どこかの高級なお菓子の箱だったと思う。昔実家で見つけて、捨てるのがもったいないから持って帰ったやつだ。使わない化粧道具を入れておくための箱として再活用することにする。

昔からかわいい箱を捨てられない。クッキーの缶とか、シューズボックスとか、果物用の桐箱とか。すごく精巧に作られていて、役割が終わったからといって捨てるのはもったいない気がしてしまう。気に入っている箱はもらった手紙をしまったり、捨てられないものをしまうために使っている。でも本当は、何か、もう中身が無いこと自体をうまく使えたらいいのになと思う。そのもの専用に作られたのに中身はもう無くなってしまって、容れ物だけが残っているのは、美しい出来事なんじゃないかと思う。

 

20200406

Nさんにふられた仕事の進め方がだんだんわからなくなり、一瞬ワーッとなったけど、そのワーッをそのまま見せない方がいいんだなということがわかるようになった。
以前は先輩や師匠に甘え過ぎていたと思う。ワーッになったらそのままワーッを伝えてしまって、解決策を出してもらっていた。自分の不安をそのまま他人に渡しても何も解決しないのに。さらにはその状態でも肯定されたいと思っていた節があるから、余計タチが悪い。
うまくできていないかもしれないって不安をそのまま口にすると、落ちなくてもいい信用を落としてしまうんだと思う。できないことがあったら、何だったらできるのか、何を変えたら解決するのかを考えればいい。
不安を口に出せる環境が必要な場面ももちろんあるから、ネガティブなことを言うなとは思ってない。単純に、自分が仕事をする上でそういう発言はしない方が得だなってだけ。それがようやくわかっただけ。
わかるの遅すぎかとも思うけど、まあ、いまわかってよかった。今より早い未来は無いんだし。

 

20200407

あまりに運動していないので、川へ散歩に行く。スマホだけポケットに入れて手ぶらで行く。川は元職場と反対方向に5分ほど歩いて、線路を渡った向こうにある。なかなか大きい川で見晴らしが良い。市内のシンボル的な低い山が見える。山腹に一本だけ桜の木があるらしく、そこだけぽつんと桜色が見える。天気が良くて、人は全くいない。遊歩道に沿って歩く。橋の下をくぐる。
コケーッて鶏みたいな鳴き声が聞こえて、目を凝らすと黒い鳥がいた。遊歩道と川の流れの間の、水草がぼうぼうに生えている地帯でじっとしている。黒い鶏がこんなところにいるものなのか?と思う。あとで調べたらどうやらキジの雄らしい。
橋を過ぎて、川を横切るコンクリートでできた構造物まで歩く。川の流れをゆるやかにするためのものなのか、氾濫を防ぐものなのか、よくわからないけど、降りて行って水のすぐそばまで行ってみる。構造物より上流は湖みたいに静かで流れが穏やか。階段上の構造物を降った先は、水草や、多少の陸地があって、その間を縫って細い水の流れが続いている。
コンクリートの上に座ってしばらく川を観察する。あたたかいし、何なら日焼けしそうだし、人間はいないし、春の花がたくさん咲いているし、時々小鷺が飛んでくる。家の中にいなくちゃいけないし、そうすることが正しいと思っていたけど、外に出るとこんなに幸福な気持ちになるのかと思う。
一時間ほど散歩して、帰ってからどっと疲れて昼寝をした。

 
20200408

新しいmacbook airが届く。結局転職は全部ダメになってしまったので、不要不急の新品のairが手元にある状態。これで日記をちゃんと書こう。

流行りのオンライン飲み会をする。高校の友人たちのLINEグループでわたしとFが通話を始めて、暇な人間が勝手に参加してくるのを待つというもの。最初はしばらくふたりで駄弁っていたけど、徐々に参加者が増えて盛り上がった。
わたしはお風呂上がりのすっぴんで参加したんだけど、また痩せた、ていうか痩せこけた、前髪が長すぎるから切った方がいいなどさんざんな言われようで笑い転げてしまった。先輩も入ってきてどうも〜とわたしの友人たちに挨拶していた。
納豆2パックを食べながらビールを飲んだ。

友人たちとは今までもずっと遠くに住んでいて会えなかったけれど、いま考えれば、会おうと思えば会えることの安心感ってあったんだなと思う。いまは本当に会えないんだなと思うと急に寂しくなる。
みんな東京でそれぞれ家から出られず、大変そう。元気でいてほしい。

 

20200409

離職票を持ってハローワークに行く。求職者登録に40分、失業給付金申請に40分くらいかかる。ハローワークの職員がわたしの離職理由を見て「記入されていない部分がありますね」と言った。簡単に言うと契約期間満了なのだけど、事前に告知があったかどうかとか労働者に契約を続ける意志があったかどうかなども記入する必要があるらしい。
「記入されていないので代わりにわたしが聞くんですが、契約を続ける意志はありましたか?」と聞かれて、ああこんなふうに聞かれるのってはじめてだなと思って「はい、ありました」と答えた。
どうやら会社都合の退職として扱ってもらえるらしい。ちょっと救われた気持ち。

ハローワークで手続きしている間、一階のどこかでガシャーンと何かが割れる音がした。同時に誰かがワーッと叫んでいるような声も聞こえた。誰かが急に怒り出して廊下の花瓶でも割ったようなシーンを想像した。
一瞬わたしのいた二階も静まりかえったけど、みんな何事もなかったかのように会話を続けた。わたしの担当だった柔和なおじさんは「大丈夫ですかねえ。怪我とかしていないといいですね」と顔をあげないまま言った。しばらくして、荒くて不規則な足音が階段を上がってわたしたちのフロアに入ってきた。怖くて顔をあげられなかったけど、髪を振り乱したスーツのおじさんがよたよたと入ってきたみたいだった。フロアの人たちが全員緊張しながら、あえて何事もないみたいに振る舞っているのがわかった。入ってきた人は職員なのか知り合いなのかわからないけど、カウンターの内側から出てきた女性に大丈夫です大丈夫ですと言いながら裏方の部屋に入って行った。直後にウアアアアッみたいな叫び声と壁を叩く音が聞こえた。
何だったんだろう。かなり異様なかんじだった。明らかに異様なことが起こっているのに全員が目を逸らして平和であるようなふりをしていて、ゾンビ映画の冒頭みたいだった。

 

20200410

オンラインミーティングが増えた先輩とテンションが全く噛み合わない。
ミーティング中の先輩はめちゃくちゃ声がでかい。二階にいても一言一句聞き取れる。ご近所さんも先輩の仕事内容をすべて把握していると思う。わたしは川に散歩に行ったり買い出しに出たりしているので、なんとなく発散できているけど、先輩は一日中ミーティングしかしていない。本当に朝から晩まで。ミーティングが終わるとそのままの声量とテンションでウェイ!!!と声をかけてくるので、うるさい。もうすこし落ち着いたら川の散歩に連れ出してあげようと思う。いつになるかわからないけど。

 

ガラス瓶を噛み砕く

 

20200328

冷静に計算してみたら、引っ越すためのお金が無いことが発覚。仕事が決まったとしてもここから出られない。どうしたらいいかわからないので考えないことにする。

グザヴィエ・ドランの「マイマザー」を観たら変なショックで透明な鼻水が止まらなくなった。

 

 

20200329

最終話に向けてIDを全部見返す。改めて見返すとあちこちに「穴」のモチーフが使われていて面白い。村上春樹から引用してるネタも多い。
結局見返していたら0時を過ぎてしまって、うたたねしていた先輩を起こしてネットフリックスで最終話を見た。先輩がうつらうつらするたびに見て!!って起こしていたけど、だんだん可哀想になってきて途中からはひとりで見た。
ID、ディスコ以来書いてなかった探偵モノをまたやってくれたことも嬉しいし、最終話がディスコ以降書いてきた祈りに帰結したところも最高だった。いままでの舞城作品の流れを汲み、かつ新しい境地を見せてくれた作品だったのではないでしょうか。

 

 

20200330

Nさんが家に来る。4,5月の仕事について話を聞く。進路の相談にも乗ってもらう。
就職が決まっても決まらなくても、4,5月はこっちに残ることになりそう。いまから上京しても、緊急事態宣言が出たりして東京から脱出できなくなる気がする。
Nさんから依頼された仕事は確かにわたし向きだし、実績にもなるし、報酬も弾んでくれるらしい。自分の能力を買ってもらえるのはものすごく嬉しい。就職が決まるより嬉しいかもしれない。

仕事を受けることを決めた勢いで、新しいmacbook airを注文した。無職がこんなものを買っていいのか…とかなり怯えていたのですが、8年前に買ったmacbookはもう限界だし、就職した場合も自分のPCで仕事しなきゃいけないし、airを買って後悔することは無いだろうと思い切って踏み出した。
生活費として使っている口座ではなく、箪笥貯金から支払うことにする。いままで手渡しでもらったお金をずっと靴箱に貯めていて、それを引っ張り出して一枚一枚数えた。ほとんどが指名されて受けた仕事の報酬なので、なんとなく大事にしてきたお金だった。仕事道具としてPCを買うのは良い使い道な気がする。大きい買い物だったのでまだドキドキしている。

 

 

20200331

ガラス瓶を噛み砕く夢を見て、起きてからもなんとなくお腹が気持ち悪かった。動くたびお腹の中のガラスが擦れて粘膜を傷つけるのではないかという感覚や、人間の身体に入れてはいけないものを入れてしまった感覚、いま身体のなかにあるということはこれから出さないといけなくてそれはものすごい苦痛を伴うだろうという感覚。何年も前から悪夢として妊娠している夢を見るんだけど、その気持ち悪さとほとんど同じだと思った。気付いたときには遅くて、その代償としてこれから更に苦しまないといけないという種類の恐怖。しかも夢の中の自分は「瓶の捨て方がわからない」という理由でガラス瓶を食べていた。あまりにも愚かすぎる。

面接の結果が来るはずの日だけど、なかなか連絡が無い。はやめにお風呂に入って、浴槽の中で本を読む。

夜になってもあたたかい。窓を開けておくとぬるい春の匂いがする。冬用のスウェットを洗濯カゴに入れて、ワッフル地の長袖で過ごす。
先輩と家から一番近い自販機まで散歩する。昼間はなるべく外出しないように心がけているので、外に出ること自体が数日ぶりだった。自販機でコーラを買って便所サンダルをペタペタ鳴らしながら戻ったら、目の前に見えてきた我が家があまりに可愛くて、しばらく家を眺めた。真っ暗な住宅街にひとつだけオレンジの光の漏れる家が佇んでいる様子がなんだかものすごく可愛かった。どの窓にもカーテンが無いことや、全ての部屋の灯りが点いているせいでアホっぽいのかもしれませんが…こんなん可愛すぎる、通り過ぎる人みんなこの家のこと好きになってしまうと騒ぎながら何枚も写真を撮った。

 

 

20200401

夕方、zoomで選考の結果を聞く。わざわざzoomで話すってことは…と覚悟はしていたが、この状況で採用するのはお互いに良くないかも、と言われてしまった。断られたというより保留になったかんじ。とはいえ事業の再開の見通しが立たない状態らしく、採用はいったん白紙に戻ってしまった。ここに行けたらいいなと思っていた会社だったので残念。

人生がグニャングニャンになってきた。やけになって欲しかった香水を注文。

 

 

20200402

続けてもうひとつ受けていた会社からも、この状況で選考を続けることが難しく…と断りの連絡が来た。これで東京に戻る道が断たれてしまった。
うららかで天気の良い朝で、家の隣の川に桜の花びらが流れていくのをしばらくぼーっと眺める。

だんだん焦り出して、失業給付金やら国の補償やらを調べる。失業給付金は受けられるだろうけど、元の給料の60〜80%をもらえるというかんじなので大した額にはならなそう。下手したら給付までに3ヶ月待たなくちゃいけない場合もあって、そんな状態でどう生きればいいんだろう。貯金も全然無いし、国の補助制度は貸与ばっかりで給付は無い。マスク二枚配りますとか言ってるし…。
とりあえず市役所に行って健康保険と年金の手続き、ついでにそれらが減免か免除にならないか聞いてみる。申請自体はできるけど離職票が無いと手続きができないらしい。しばらくは待つしかないとのこと。

とりあえず二ヶ月くらいは仕事をもらう約束をしているのでなんとかなると思う。その先はどうなるんだろう。

 

 

20200403

起きてすぐ涙が止まらず。昨日はなんともないと思っていたことの悲しさが今朝ようやく追いついたんだと思う。

昨日の夜、元職場の人たちと少人数でお花見をした。来ない?って声をかけてもらったから遊びに行ったけど、みんなが騒いでいるなかで全く気分が乗らず、ずっとテントのなかで横たわっていた。来るべきじゃなかったなと思った。わたしがいなくたって全く問題なく盛り上がる場なんだし、一応誘ってくれただけでわたしはこの場を楽しめないんだから来るべきじゃなかった。
外が寒くなってきて引き上げたけど、その後みんな我が家にやってきて夜中まで飲んでいた。わたしは帰ってすぐに二階の自室に篭ってひたすらマインスイーパをし続けた。風呂に入るタイミングを見計らっていたけど、結局一階に降りる勇気が出ず、こっそり顔だけ洗って寝た。
自分の家なのに自由に振る舞えないこと、かつそれが自意識過剰なだけでわたしが気にしなければ解決することというのが実家で暮らしていたときの感覚と全く同じで、とにかく苦しかった。マインスイーパをしている間は苦しいとか何も思わなかったけど、何も思わないためのマインスイーパなんだから当たり前かもしれない。

朝ごはんを食べて身支度してコーヒーを淹れるところまでは機嫌良く過ごしたけど、その後機嫌が急降下してずっと体育座りでぼーっとしていた。何をしたら人生が良い方向に向かうのか、良い方向って何なのか全然わからない。

 

変わらない結末に向かってあがく

 

20200321

最後の出勤日。仕事用PCの整理をしていたらふざけて撮った写真などがたくさん出てきた。これだけ距離が近くて楽しかったのに、こうやって出ていかなきゃいけないことってあるんだなと思う。

夕方、最後の挨拶をする。事務所に呼ばれて花束を渡されて、一言どうぞと言われる。みんなが笑顔で拍手してて、何だこれ、何なんだこれはと思う。何を喋ったか全然覚えてない。当たり障りないことを言ったと思う。その場を仕切っていた先輩も察してさっさと切り上げてくれた。
集合写真を撮る時、主役として真ん中に立たせてもらったけど、こんなことのために全員の時間を割きたくなくてはやく消えたい気持ちでいっぱいだった。わたしがそんなんだから他の人が笑いを取って間を持たせてくれて、結局みんなそっちを見ていた。こういうのってわたしのサービス精神が足りないってことなんだろうか?笑いを取っていた人は人間関係におけるサービスとしてそういうふるまいをしてくれていて、本当はわたしがそれをやるべきなんだろうか?わたしが知らないルールが本当は存在はあって、ただヘラヘラしているのも罪なのかもしれない。

帰ってからもらった花を生けた。花があるのは単純に嬉しい。起きたらすぐ目に入るよう枕元の机に並べてから眠る。

 

 

20200322

昨日の夜テイクアウトしたお寿司の残りを台所の床で食う。曇りで、一日中家のなかが暗い。

先輩が「ワンダと巨像」をプレイしているのを見守る。10年前プレイしていたときはプレステ2だったけど、いまは4でリメイク版が出ているらしい。画質がかなり綺麗になっていた。
先輩が細い橋を渡るのに危なっかしい動きをしていたので、「そこ操作しなくてもアグロに任せてたらうまく渡ってくれるよ」と言いながら、そこがこのゲームの良さだったよなと改めて思った。

ワンダと巨像」をプレイしたら、アグロのことを好きにならざるを得ないと思う。アグロというのは主人公ワンダの愛馬で、黒毛で額に白い印のある、賢い女の子です。女の子なんです。広大な土地を駆け回って13体の巨像を倒していく間、ずっとそばにいてくれるのはアグロだけだ。神殿の女の子はずっと眠ってるだけだし、「ワンダと巨像」のヒロインってアグロだと思う。
時にはアグロがいないと倒せない巨像もいるし、何よりアグロはすごく賢い。走らせたら大抵の障害物は勝手に避けてくれるし、呼んだらどこにいても駆けつけてくれる。呼ばなくても、巨人から振り落とされた時なんか心配そうに駆け寄ってくれたりする。わたしが背から降りて調べ物してる間は暇そうに草を食んだり、そのへんに散歩に出たりしてしまうところも可愛い。
ゲームとしては、馬に乗ったまま崖から落ちてしまうって、まあ普通かもしれないけど、アグロは嫌がって崖の手前で止まってくれる。そういう描き方って誠実だなと思うし、ちゃんと生きてるんだって思う。

終盤、何度あの橋を渡りなおしたことか。もっと手前から走り出したら間に合うんじゃないか、連打したらなんとかなるんじゃないかって何度もリロードしてチャレンジした。プレイした人ならこの気持ちをわかってくれるんじゃないでしょうか。あそこムービーだから結局どうにもならないんだけど…どうにかなって欲しいって思うじゃん。変わらない結末に向かってあがくことも愛だ。

 

 

20200323

早朝に起きて友人に会いに行く。
バス停についてからマスクを忘れたことに気付いた。普段は田舎だからほとんど気にしていなかったけど、バスって三密だしよく考えたらやばいのか? コンビニに入ってもマスクが売り切れていたので、先輩に電話してマスクを一枚持ってきてもらう。マスクって本当に売り切れてるんだなと思う。

友人と合流。半年ぶりなのに、会ってすぐに髪を染めたことに気付いてくれて嬉しかった。ふたりで百貨店をぶらぶら歩く。普段は中国人観光客で賑わっているらしいけど、いまは人が少なくてガラガラ。気になっていたブランドでグロスをタッチアップしてもらう。タッチアップしてもらうのってかなり勇気がいるけど、友人が「この色試してみていいですか?この子なんですけど」とどんどん声をかけてくれる。一緒に来てもらってよかった。オレンジのラメ入りのグロスを一本買う。

香水はいくつか良いなと思うのがあったけど、無職が買うにはちょっと勇気のいる値段だった。仕事が決まったら買おうと思う。でもわたしが「夜の良いニオーイ」と呼んでいる匂いの香水が見つかったことが嬉しかった。「ユニセックスで使えるかんじが良くて…木とかハーブっぽいのが好きで…でもムスク?みたいなあったかい匂いも入ってると嬉しくて…」みたいなふわっとしたオーダーから、百貨店の香水売り場のお姉さんが本気で探してくれた。すごい。「アマゾンの森に降る雨の匂い」の香水らしい。何の匂いが入っているのか聞いてみたら、「これはびっくりされるのでお出しする前には言わないんですけど…実はキュウリの匂いなんです」とのこと。そう言われたらそんな気もするけど、みずみずしくてすごく良い匂い。すごく良い匂いですね!そうですよね?!とお姉さんと盛り上がる。わたしが「夜の良いニオーイ」と呼んでたのってキュウリの匂いだったんだ。

ひとりで観るのが怖いから付き合ってと言われて、友人と「ミッドサマー」を観る。わたしは二回目。友人はエンドロールが終わるやいなや「笑ってはいけないカルト村じゃん」と呟いて笑い転げていた。ラストシーンで、村人が「痛みを感じないように」って薬を飲まされたのに結局めちゃくちゃ痛がっていたのがツボだったとのこと。

わたしの辞め方について、友人が代わりに怒ってくれてありがたかった。いままで周りに関係者しかいなかったから、唯一気持ちをわかってくれる人に会って話すことができてよかった。
友人とはもともと一緒にバイトをしていて、その延長としてそれぞれ仕事をしてきたんだけど、この先のキャリアとか全然わかんないよねという話をする。上の人たちはフリーで仕事をしたり大学で教えたりバラバラだし、参考にできない。何を目指すべきなのか、自分で決めなくちゃいけないのってどうしてこんなに苦しいんだろう。
友人もなんと来年度いっぱいで職場が無くなることが判明したらしく、お互いがんばって生き延びようねと誓い合う。わたしたち自分の人生をやっていくしかない。

 


20200324

先輩と急いでお花見に行く。もう咲いちゃってるのでは?と焦って行ったけど、まだ一分咲きくらいだった。まだまだコートを着ていても外でじっとしておくのは寒い。日当たりの良いところで咲いている桜を眺めながらショートケーキを食べた。しばらく川べりで音楽を聴いてから帰宅。

就活を手伝ってくれた同僚の家に寄り、お礼としてプレスバターサンドを渡す。あまおう味の限定のやつ。もう明日には引っ越すらしくて、荷物がほとんど無くなっていた。「こうして見ると普通の家なんだよな」「もうIさんの家じゃないね」

夜は家で居酒屋さんごっこをする。レモン醤油のオクラ、梅と白だしかつおぶしとオクラを和えたもの、冷凍の水餃子、エリンギと鶏皮のバター醤油柚子胡椒炒め、鶏胸肉にネギ生姜醤油ケチャップ酢ごま油豆板醤のタレをかけたものなどを作る。ビールも飲んだ。

 

 

20200325

怒涛の面接ラッシュが終わった。今日受けた面接がたぶん最終で、ここに決まれば就活は終わりにしようと思う。引っ越しの実感はまだまだ湧かない。本当に引っ越すのか?
あとは人生が大きく変わっていくのを待つばかり。

明け方まで先輩がゲームしているのを見ていた。

 

 

20200326

いまから東京に引っ越すのって無謀では?と思い始める。昨日面接した時は東京に行くものだと思ってたけど…。内定をもらえたら、とりあえず二ヶ月くらいこっちで様子を見たいって交渉しようかな。その間はこっちで元職場の人の手伝いをするつもり。4,5月に手伝ってくれる人を探しているという話を聞いたときは、まあ本当に就活失敗したら当てにしようかな〜なんて言ってたけど、普通に頼ることになりそうだ。

日本博のオープニングセレモニーの中止が発表されたのがこの日。
「家族が自宅待機で嬉しがるイギリスの犬 尻尾を振りすぎてねんざ」のニュースもこの日。

 


20200327

元職場で国内外の出張が禁止になったらしい。ここ一ヶ月の間に首都圏に出張していた人もしばらく自宅待機とのこと。ここ数日で一気に空気が変わっているかんじがする。

就活の重圧から解放され、オタクアカウントで「id:INVAITED」の話ばかりしている。
舞城王太郎の「好き好き大好き超愛してる」単行本のみに収録されている短編「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」を未読であることに気が付き、即注文する。「キミトピア」「淵の王」など手元に無い作品も買い漁る。本って読むより買うときの方が楽しい。

 

川原でカスタードパイ


20200314

せっかく何もすることが無い期間なので、「廻るピングドラム」の続きを観る。
やっぱりイクニ作品とどう向き合っていいかわからないな〜と思う。

ピンドラもカッパのやつもそうなのですが、一話からずっと違和感があって、それはなぜこの物語が語られるのかがわからないままストーリーだけ進んでいくからだと思う。
イクニ作品って、登場人物たちが何を求めているのか、それはなぜなのか、という物語の核が最後に明かされる構成になっている。あえてそうしているのもわかる。
でも個人的には、物語に引き込まれるフックが見えないというか、なんでこれを見せられているんだ…?みたいな気持ちになることが多い。「妹を助ける」という行動の動機が「妹だから」でしかなくて、その奥の大きな物語が見えないからだと思う。

ゆりさんとタブキ先生は好きだったな。行動の動機がストーリーのなかできちんと描かれていたから。彼らが彼らの人生においてどのように否定され、どのように救われたのかが描かれていたから。あの二人はちゃんと呼吸してるキャラクターだなと思った。
そういうのが他のキャラクターではあまり描かれていないように感じて、最終的に見せたい構図のために配置された記号のように見えてしまう。

キャラクターがちゃんと呼吸していて、そこから物語が始まってほしいなと思う。それぞれのリアリティと、そこへの敬意を持って描かれる物語が好きなんだと思う。

 

 

20200315

毎朝飽きもせずホットケーキを焼き続けている。焼き方とか、粉と牛乳の配分とか、試行錯誤するのが楽しい。オーソドックスなメニューだけど、検索すると人それぞれに理想のホットケーキがあるっぽい。卵白を泡だててスフレっぽくしたり、牛乳多めで口当たりをなめらかにしたり、フライパンいっぱいに大きいホットケーキを焼いたり。
そういうのを色々試しながら、自分なりのホットケーキレシピを探るのは楽しい。
わたしはどっちかというとモサモサした食感の方が好き。生地が丸く広がらないくらいもったりさせて、焼き目の縁が波になると嬉しい。けしてパンケーキとは呼ばせない流派です。

 

 

20200316

最近はあれは持っていくこれは持っていかないって身のまわりのものにラベルを貼ってくような気持ちで生活している。コーヒーを淹れるためのやかんは良いやつなので持っていく。お皿も何枚か持っていく。本棚は持っていかない(自立しないから)。先輩と作った机は新しい部屋に合うサイズかどうかわからない。
まだまだ新しい部屋どころか新しい職も決まっていないが、ここに行けたらいいなと思えるところができた。これから先の生活を前向きに考えることができるようになってきたと思う。

男性のつめを塗りたくてしょうがなく、先輩のつめを塗った。男性のネイルっていいなと思う。シックな色で一色塗りしてもいいし、グリッターでギラギラにしてもいいし、蛍光色とかもかわいい。
先輩はつめが呼吸できないかんじがすると言って若干嫌がっていた。理由が子供だ。

 

 

20200317

午前中に面接。最近受けている面接はすべてオンラインだったけど、今日だけは対面だった。
近所のホテルのロビーで話す。まあ大丈夫だったんじゃないでしょうか。

午後、先輩と川に行く。めちゃくちゃ風の強い川原でカスタードパイを食べた。好きなパン屋で買ったやつ。3月にしか売ってないやつ。
川ではコガモの群れを見た。

 

 

20200318

昔好きだった人がしょっちゅう夢に出てきてむかつく。

 

 

20200319

夕方に一件オンライン面接。

最近ようやく面接に慣れてきて、いちいちメモを作らなくなった。聞かれることってほとんど同じだし、違う質問でも用意していた話題につなげて喋ればいいなど、コツがわかってきたと思う。
学生の頃は面接官にすごく見下されていた感覚があったけど、いまは社会人として接してくれるからなのか、そもそもオンラインで面接できるくらいの新しい会社だからそういうノリなのか、普通に喋っていたらなんとかなる。
いままで、「これから目の前の人に裁かれる!」って恐怖心が強すぎたと思う。
ここに至るまでに、自己分析を試みたり自己PRを書くのに唸ったりしてきたけど、そういうの多分全部無駄で、方向違いの努力だったなと思う。どうなんだろう。この方向違いの努力をしてきた結果、ふと顔を上げたらなんとかなっていた、みたいな気もするけど、そもそも努力していなくても何とかなっていたのだろうか。

 

 

20200320

好きな時間に起きて好きなだけだらだら過ごしている。そろそろ生活リズムを整えたいなと思っているんだけど、何のために整えればいいんだろう?
目指すべきものが何も無い。

職場に行って残りの有給を整理し、明日を最終出勤日にすることにした。デスクに置いている本やらおかしやらを持って帰らなきゃな。

もう職場に行っても、誰かに話しかけられたらどうしようって怖さは無くなった。休んでいる間に、職場無しの自分のアイデンティティについて考えたり、面接やオファーを受けたりしたことで、ちょっとずつ自分の足場が見えてきたんだと思う。
こうやって変化していくんだなと思ったので記録しておく。

 

 

「目が透明になってる」

 


20200307

出勤。最後の仕事が無くなってしまったのでもうやることが無い。月末に忙しくなるだろうと思っていたから、有給もほとんど使ってしまった。早めに退職しちゃえばいいんだろうけど、このタイミングで保険証を失うのってどうなんだ?

職場もコロナウイルスの影響で閉まっていて、非常事態っぽい空間になっている。数日前までは普通だったし、この先もまあ普通に仕事をするだろうと思っていたのに。
久しぶりの出勤だったので、2月いっぱいで喫煙所が撤去されたことを今日知った。ここ4,5年のほとんど毎日、さぼったりふざけたり話し込んだりひとりで泣いたりしてきた、思い出深い場所だった。
人生の潮目ってかんじだ。

 

 

20200308

先輩と映画を観ながらこたつで寝落ちして、朝5時半に目覚める。最高の朝5時半の過ごし方について話し合い、結局近所の小さい山に登って朝日を見た。
帰ってカップラーメンを食べてから二度寝

この間受けた面接、感触はよかったのにもう二週間も連絡が無い。人伝てに紹介してもらった仕事だから、落ちたとしても一言連絡があると思うんだけど。
これが落ちていたとしたらまた振り出しに戻ることになる。なぜならまだひとつしか応募を出していないからです。
wantedlyに登録したり書類を送ったりしなきゃいけないんだけど、自己PRが書けない。その一点のみでずっと躓き続けている。その間に、自分だけじゃなくて世の中もどんどんおかしくなっていってる気がする。

 

 

20200309

職場の送別会。
久しぶりに会った同僚に「目が透明になってる。大丈夫か?」と聞かれる。毎日空中を眺めているからかも。大丈夫かどうかはわからない。
笑顔で送り出されるのめちゃくちゃ嫌だ〜〜〜と思っていたんだけど、会場がカラオケ付きの部屋で、とにかくみんな次々歌うので隣の人ともまともに喋れない。全員わけわかんなくなっていたので結果的に助かった。スピーカーが出力の限界を超えているのか、棚ごとブリリリリリリと震えていてスリリングだった。
餞別の品として双眼鏡をもらった。川で鳥を見るための双眼鏡。

同僚に最近どうやと聞かれ、もうなんか…何もできてないと答える。自己PRなんか盛って盛ってギリギリ詐欺にならなければいいんだよ、俺に任せとけと言ってくれて、明日就活を手伝ってもらう約束をする。

帰り道、めちゃくちゃ雨が降っていて、傘なんか持っていないので土砂降りのなかを自転車で帰った。途中で帰り道が別れる人と、走りながら大声でまたねー!と言い合った。

 

 

20200310

朝、はやく起きて遊ぼうよ!とか言って先輩が起こしに上がって来た。昨日もらった双眼鏡を使って、いつも観察する山を二人で眺める。双眼鏡の性能が良く、山の輪郭が一本一本の木でできているのがわかる。近所の鳥やら電信柱などを観察するが、見えすぎてしまうので近所の家を覗くのは禁止にする。小雨。

徒歩20秒の同僚の家に行って就活を手伝ってもらう。
自己PRも、わたしの思想とかはいいからとにかくできることを盛って書きなさいと言って項目を立ててくれる。それに沿って書き直すことにした。その間に同僚がわたしの代わりに志望理由を書いてくれて、メールの文面も一緒に考えてもらって、日付を超えるまでには2つの求人に応募し、連絡が無い会社への問い合せメールも送ることができた。
昨日までウジウジしてたのが嘘のようだ。こうして人に頼りまくって答えをもらうことが正しいかどうかはわからないけど、今この場面ではとにかく動き出さないといけなかった。ものすごく救われたことは確かだと思う。
同僚にごはんをご馳走になり、テラスハウスの最新話だけ見てゲラゲラ笑ってから帰る。

帰り道、家の前で流れ星を見た。
あ、いま何かと目が合った、と思った。
しばらく口開けて見上げていたけどそれきりだった。

 

 

20200311

アルバイトの子たちの卒業式。我が家で鍋をする。いろんなスタッフが顔を出しに来てくれて、卒業生に日本酒やはっさくや本やCDをプレゼントしていた。良い卒業式だったと思う。
いろんな仕事がグチャグチャになったけど、アルバイトの子たちの面倒を見たことはちゃんと自分の仕事としてやり切ったと思う。
さわやかで良い別れだった。
就職先はみんな違う県だしかなり距離もあって、こうして全員で集まることはもうないかもしれない。これからそれぞれの人生を生きていくだろうけど、その人生が幸福であってほしい。本当に。

 


20200312

同僚に手伝ってもらったおかげで、応募した会社から爆速で返事が返ってきた。さっそく面接が三件も決まる。
相変わらず面接は怖いが、前に進んだと思う。

わたしが死んだら先輩に連絡してもらうよう妹に頼んでおくね、という話をする。
祖母が亡くなったとき、通夜も葬式もせず家族だけで荼毘に付したけど、祖母にも友達や親しくしていた人がいたはずなのにと思った。相手が亡くなったことを知らないまま関係が終わっていくのはさみしい気がする。それとも、80年も生きるとそんなことにはこだわらなくなるのかしら。

 


20200313

日記に現実の人間関係について書くの、本当は良くないことなんだろうと思う。
でも現実のことをありのまま書けているわけじゃなく、これは全てわたしの主観でしかない。日記として嘘を書いている可能性だってある。というかどうしたって嘘が紛れ込んでしまう。
かといってフィクションを名乗る資格もないし、フィクションとして書きたいわけでもない。
現実に起こったことと、それを記すことの間の乖離についてはずっと考えているんだけど答えが出ない。
わたしと書いたわたしは本当にわたしなのかはわからないし、そのことに自覚的でなければならないと思う。

それでも人生のなかでたまに起こる、あー生きててよかったなと思う瞬間のことをできるだけ書き残しておきたい。
生きててよかったなと思う瞬間というのはけして自分にとって嬉しい出来事とは限らなくて、人間が生きていて思考していて他人と関わったりするなかで何かが起こったりする、その何かが起こることやそれを目撃したことに、何か生きていることの価値を見出したりするからです。
できればそれを自分のために記録するだけじゃなくて、誰かに受け取ってほしい。
こんなことが起きて、それを目撃して立ち尽くすしかないような気持ちが存在したことを誰かに受け取ってほしい。
自分が存在したことを残す方法として、わたしにできることはそれぐらいなんじゃないかと思う。

 

 

何か良いことが起こるチケット

 

20200229

3月末に初めて自分が担当した仕事があって、それを最後に退職する予定だったのですが、コロナウイルスの影響で雲行きが怪しいかんじになってきた。
卒業式が無いまま卒業しなきゃいけない学生たちの気持ちが、いまならよくわかる。

 


20200301

無職に向かってひた走りながら物欲がすごい。
春夏用の香水とブロンズ色のマニキュアと唇が荒れないリップバターときれいな石のついたピアスと名前がかわいいチークとちゃんとしたファンデーションとノーカラーのシャツとオレンジのアイシャドウと眉毛用のブラシが欲しい。全部欲しい。いますぐ欲しい。

欲しいもののこと以外に考えることが無い。これから何か良いことが起こるかもしれない、という期待が何も無くて、そういう状態に人間は耐えられないんだと思う。
かわいいもの、欲しいものは、手に入れることで何か良いことが起こるチケットみたいなものに思える。これを手にいれることで、何かが良い方向に転ぶかもしれない。何の保証もないけど。願掛けみたいなものだけど。

 


20200302

ついに最後の仕事の中止が決まった。

協力してくれた人たちに申し訳ない気持ちと、いままで、いままでっていうのはこの仕事のためだけじゃなくてこの二年間、頑張ってきたのって何だったんだろうという脱力感と、もうこれ以上気を張って出勤しなくていいんだって肩の荷が降りた気持ち。

つめをイチジク色に塗る。

夜、ウェブサイトに載せるプロフィールを書いてもらうために職場の人と山道をドライブ。
自分の人生に起こった出来事についてのインタビューを受ける。が、自分の人生における選択のすべてが恥ずかしくて、誤魔化しまくって結局何もおもしろいことを話せなかった。まあ多分書けると思います、と言われた頃には、山を超えて隣の市まで来ていた。
もっと自分の人生がおもしろくて、かつそれを他人におもしろく話せるだけの度胸があったらよかったのに。申し訳ないことをしてしまった。
わたしのプロフィールがいつ公開されるのかわからないけど、その頃にはもう辞めていると思う。

 

 

20200303

あまりにも自己PRが書けず、先輩に手伝ってもらおうとしたけど全然うまくいかず、挙げ句の果てにキレ散らかしてしまった。最悪。

書いたものに対してダメ出しをしてもらったけど、結局何が正解なのか全然わからないし、そもそも正解を書けないままでいたいという気持ちも多分あるし、一緒に住んでいる先輩への甘えなども全部入り混じって、最悪なキレ方をしてしまった。
こんなの何にもならない。かといってこの状態からひとりで就活ができる気もしない。
誰かにもう無理だよって言って欲しい。諦めなさいって言って欲しい。何者かを目指そうとするのとかも全部無駄だから、もうここで働きなさいって指定して欲しい。
本当は何になりたいのか言えって問い詰められるより、そっちの方がずっと楽だ。

 

 

20200304

何もする気が起きず、一日中家に引きこもってミュージカルの配信を見ていた。
オタクコンテンツを摂取すると脳を隅々まで満たしてくれるので余計なことを考えなくて済む。
アドレナリンが出ているうちに部屋から出てえいやと風呂に入る。

 

 

20200305

わたしが最高のメイク動画だと思っている「あゆたまの日常メイク」を見たら落ち着いた。現代に生き残ったガングロギャルのメイク動画なのですが、つけまつげを6枚も切ったり貼ったりしてるし、ここは自然に〜て言いながら1センチの太さでアイライン引いたりしていて、すごい。自分の目指すかわいさが明確にあって、どう見られようが真摯にそこを目指している。他人の目指す美しさと自分の目指す美しさは同じではない、人それぞれに美しいと感じるものは違うのだということを見るたび思い出す。すごく励まされている。

 

 

20200306

この間インタビューを受けたときに結局何も打ち明けられなかったことへの後悔があって、シャワーを浴びてるときにグウウウウウとひとりで唸ったりしてしまう。
でもそれって、裏返すと「本当はわたしには価値があるのに」と思ってるってことなんだろうな。

そういう性根がすべての原因だと思う。他人には言わなきゃ伝わらないし、つまらない人間ですってアピールしたらつまらない人間なんだなと思うのは当たり前のことだ。
わたしは「それでもあなたには価値がある」って、誰かに見出されるのを待っているんだと思う。その無意味さにも気付いている。

他者と関わることが怖いのは、自分が変化していくからだ。自分が変化することへの覚悟なしに他者と関わることはできない。

 

 

ハワイとして生まれていたら

 

20200222

何年かぶりに髪を染めに行く。気持ちを切り替える方法として、気合を入れるとか考え方を変えるとかって精神論的で好きじゃない。そんなのより自分の見た目を変えることの方がよっぽど健全だと思う。

が、髪が太くて硬いのでほとんど色が入らず、「やっぱりちょっと柔らかい雰囲気になりますね〜!」とかワンオクターブ高い声で言ったけどこれ誰にも気付かれんやろう……と思いながら帰宅。
実際誰にも気付かれなかったのですが(一ヶ月後、半年ぶりに会った友人だけが気付いてくれた)、まあそんなことは関係無いのだ。髪を染めてみようって思って行動したことが重要だったんだから、これで良いのだ。

 

 

20200223

先日面接をした会社にポートフォリオを提出。
自己PRがどうしても書けず、コメダの閉店ギリギリまで粘ってなんとか間に合った。間に合ったけど、23時過ぎに送るのって非常識だったかもしれない、と送ってから気付いた。しかも相手の名前を書き間違えていた。
もう送信しちゃったしどうしようもない。あばばばばと声に出しながら頭と手足をめちゃくちゃに動かしていたら眼鏡が飛んでいった。取り返しのつかないことで悶々とするときは、過剰な動きをするとちょっと気持ちがマシになる気がする。脳が混乱してるんだと思う。

自己PRを書くという行為が、側から見ている分にはまあ楽勝でしょと思えるのですが、自分の身にふりかかってきた途端出口の見えない霧のなかに突入したみたいな気持ちになる。己がどういう人間なのか示せと責められるような気持ち。
素直に書けばいいって言われるけど、でも結局そこを見て評価を下されるわけだからそのままを書けばいいってものでもなくて、じゃあつまり素直な状態でも他人から見て好ましい人間でいなければいけないってことなのか?など、考えれば考えるほどわからなくなるし、そのわからなさに逃げているという自覚もある。悩むべきはそこじゃない。わかってるんです。本当は真摯に自己PRを書くことに向き合えばいいだけなんです。でもそれが一番怖い。書こうとして何も書けないことが。

 

 

20200224

自己PRが書けないことについて、引き続き落ち込む。
どうしたら他人に認められるのかを考えながら書こうとすると、あらゆる言葉がそっぽを向いてしまって、自分のことすらわからなくなってしまう。その辛さに耐えられずメモ帳にしんどさを書き殴ったりするのだけど、自分の言葉で自分のことを傷つけているような気もする。
「なぜ自分は書けないのか」って問いは、結局自分のダメさを書き連ねるための逃げ道にしかならない。自分の言葉で自分を呪わないように気をつけないといけない。
出かけようと運転席に座って、その瞬間に思考ががんじがらめになっているのがわかってそのまま動けなかった。だんだんあったかい日が増えてきた。運転席でしばらく身体を日差しに浸した。

 


20200225

タリーズで作業していたら、隣の席のおじいさんに「嬢ちゃん。さっきから思ってて、失礼だけど…手がきれいだね!良いバランス!」と突然褒められた。マニキュアの色じゃなく手のバランスを褒められたのって初めて。ありがとうございますと返したら「なんだっけ、手のモデル、あれになれるわあね」とだけ言い残して、スッと立ち去っていった。

夜、先輩と家を探検して遊ぶ。家中の電気を消して、順番に部屋を見て回るだけの遊び。
普段は立ち止まったりしない廊下の窓を開けて、座り込んでたばこを吸ったりした。
電気を消していると、外のほの明るい景色が絵みたいに見える。山のあんなところに謎の赤い光があるとか、もしいまと違う名前を付けられて生まれてたらどんな人生だったかなとか、そういうしょうもない話をする。
生まれる前、わたしの名前の候補は「ハワイ」だったらしい。ハワイとして生まれていたらきっと全然違う人生だったと思う。たぶん友達がいっぱいいてめちゃくちゃ明るいと思う。ハワイだし。

 

 

20200226

「一週間で書ける!自己分析ワークシート」というのをやり始めた。
自己分析をするの、なんだかんだ気持ち良かったり正しいにレールに乗っている気分になれるけど、これって自分の人格から社会の役に立たない部分を削り落としていく作業だなと思う。無自覚のままそういうことをさせられるのが嫌だ〜と脳の一部が点滅してるかんじがする。

自分の手で「社会の役に立てる自分」という物語を作らせて何度も語らせたら、その物語を内面化しないはずがない。良い子でない部分が削られてなんとなく「良い人」になっていくのって嫌すぎる。

みんな、矛盾していて意味がわからなくて何の役にも立たないことを一生言っててほしい。
無意識のうちに正しさで他人を殴ることの無いよう、気を付けて生きていきたい。と思っていることを忘れないでいたい。

 

 

20200227

先輩とミッドサマーを見に行く。ドライブの間中、aikoの「花火」の歌詞を読み解く遊びをする。
aikoが一節歌うごとに「止めて!」って叫んで、「胸ん中で、何度も誓ってきた、言葉が、うわっと、飛んでく?これは…?」と細かく考察していく遊び。
「花火」に関しては、友達の彼氏だか旦那だかとけっこう良いかんじになったが(たぶんキスまではしている)結局選ばれなくて男を忘れようとしている歌、という解釈にまとまりそうだったのですが、終盤で「もしかして男、死んでるのでは説」が浮上して大変盛り上がった。死んだ男のことを忘れらないが、最近好きな人ができそうって歌にも聞こえてくる。
5分足らずの曲を聞くのに1時間かかった。「花火」の歌詞は本当にすごいな。

映画を見て、コーヒーを飲んで靴下を買ってクレープを食べて、だだっ広い古着屋で500円のシャツを買って、貝汁を飲んでから帰った。

 


20200228

新しく契約したクレジットカードについての手続き諸々が進んでおらず、時々カード会社から電話がかかってくるようになった。怖いのでずっといないふりをしている。電話がかかってきている間、着信画面を非表示にするやり方がわからず(できるわけない)、カード会社の電話番号が表示された画面を見つけ続けるだけの虚無の時間が発生している。
たぶん郵送されたカードを受け取れなかったせいで郵送元に戻ってしまっているらしく、そのせいでカードと口座の紐付けができていないし支払いも滞っているっぽい。つまりわたしは正月からずっと代金未払いのコートを着ていることになる。
絶対電話に出た方がいいのはわかっているのですが、何が起こるかわからなくて怖い。めちゃくちゃ怒られたりするんだろうか。不在票にも気付かず、さらに電話を無視していることを詰められたら何て答えればいいんだろう……。ロボットだったらすぐ出るのにな。